さよなら異邦人
家に帰る気も無くなり、僕は無意識のうちに何度も電車を乗り換えていた。

気が付いた時には、あの日、里佳子と一緒に降り立った駅のホームに居た。

空は一面真っ蒼で、照り付ける太陽がじりじりと肌を焼いて行く。

ホームには、地元の高校生が何人か居て、みんな明日からの夏休みに心を馳せているのか、屈託の無い笑顔を巻き散らかしていた。

遠く海の方では、沖合いに向って幾つものサーフボードが漂っている。

古ぼけた木のベンチに腰を下ろし、ずっと沖合いを眺めていた。

やつは……里佳子は判ってたんだ。

自分の命が長くない事を……

でも、彼女はそんな素振りを少しも見せていなかった。

病気だったなんて、一言も言わなかったし、具合の悪そうなところは、微塵も感じさせなかったのに。

突然過ぎて、信じられない事ばかりだ……こうしている時でも、いきなり

加瀬ェ!

と僕を呼ぶ声が聞こえて来そうで、手紙も、先生が言った事も、全部ジョークだよって、あの笑顔で言ってくれそうな気がして……

そうだ、きっとそうなんだよ!

これは、あいつが考えた悪ふざけなんだよ……

そうやって、現実離れした考えに没頭していると、ケータイの着メロが鳴り響いた。

それは、里佳子からのメールを知らせるメロディだった。


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