さよなら異邦人
「読んだ感想は人それぞれだから、どう思われようとも構わないが、里佳子が読んでくれていたとは意外だったな」


「あんだけ読め読めって言ってたくせに。そりゃ気にもなるわよ。アタシの名前使われてんだから。それが不治の病だか何だか知らないけどさ、殺しちゃうんだもん」


「それも、すげえ唐突にね。幾ら小説だからって、何でもかんでも不治の病を持ち出せば、悲しむってもんじゃないと思うけど」


「案外、現実の方が唐突に悲劇は訪れるものよ」


 意外な事に、妻が私に代わって子供達に反撃してくれた。


「ねえ、お父さん」


「う、うん……」


 同意を求められた私は、戸惑いを隠せなかった。


「それにしてもさ、ラブホで二人っきりになりながら、何にも無かったというのは、純愛過ぎない?」


「じゃあ里佳子に聞くが、お前がああいう状況だったら、どうなるんだ?」


 少々怖い質問だったが、娘からどういう答えが帰って来るかという興味もあった。


「行ってみないと判んないけど、余命僅かって状況だったらエッチしちゃうんじゃない」


 娘の口から直にそういう言葉を聞くと、さすがにショックだった。


「龍之介だって、襲っちゃうでしょ」


「こんだけ思わせ振りされたらね。でもさ、ラブホの中、随分と詳しく書いてあったけど、オヤジ、いつ行ったの?」


 息子からの攻撃は、予想外な方向から飛んで来た。


 傍らで、妻が興味津々という表情で見つめている。



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