さよなら異邦人
『感想ノートへの書き込み、いつも嬉しく思い、拝見させて頂いて居ります』


「随分と固い文章でお返事するのね」


 背中越しに妻の声。


 どうしていつも、感想ノートに返信を書き込む時に限って覗かれるんだ?


「俺にはこういう書き方しか出来ん」


「あら、随分と威張ってらっしゃる」


「誰も威張ってなんかいない」


「おかしな人。ねえ、私思ったんだけど、この題名って、物語の中身と少し矛盾していないかしら。表紙にだって、アニータっていう女の子の事が書いてあるから、読む人はてっきりその子との絡みを思っちゃうじゃない?」


「そこが深い部分なんだ」


「どう深いの?」


「それが文学というものだ」


「そう、文学ねえ……」


 言ってしまった私にすら、文学とどう関係あるかなんて判っていない。


 妻を煙に巻く為の詭弁、とまでは行かないにしても、それに近い取って付けた言葉だ。


「思い出した。昔、あなたがシナリオを劇団で書いていた時に、似たような事を言ってたわ」


「また黴の生えたような昔話を持ち出すなあ」


「歳を取ると昔の話は全部黴臭くなっているものよ」


 うん、なかなかの真実だ。


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