さよなら異邦人
彼女は旅立った。
何故か、この時は少しも涙が出なかった。
泣きはしなかったが、僕はずっと不機嫌な顔をしていたと思う。
こういう日がいつかは来るだろうと覚悟はしていたし、反面、あいつの事だから、ひょこっと現れて、
「病気、治っちゃった」
と、言って例の無邪気な笑顔を見せてくれるかも知れないという、淡い期待もあった。
僕が涙も流さず、不機嫌になっていたのは、きっと、ちゃんと別れの場に立ち会えなかったからだと思う。
でも、その事で彼女の両親を不人情だとは思わなかった。
寧ろ、優しさと気遣いを感じた。
教室中に、女子のすすり泣く声が広がって行く中、僕は里佳子の机に置かれた花ばかりを見つめ、
これ、何ていう花だっけ……
と、そればかりを考えていた。
彼女が好きだった色も、こんな色だったっけかな……
その花がラベンダーだと教えてくれたのは、母だった。
何故か、この時は少しも涙が出なかった。
泣きはしなかったが、僕はずっと不機嫌な顔をしていたと思う。
こういう日がいつかは来るだろうと覚悟はしていたし、反面、あいつの事だから、ひょこっと現れて、
「病気、治っちゃった」
と、言って例の無邪気な笑顔を見せてくれるかも知れないという、淡い期待もあった。
僕が涙も流さず、不機嫌になっていたのは、きっと、ちゃんと別れの場に立ち会えなかったからだと思う。
でも、その事で彼女の両親を不人情だとは思わなかった。
寧ろ、優しさと気遣いを感じた。
教室中に、女子のすすり泣く声が広がって行く中、僕は里佳子の机に置かれた花ばかりを見つめ、
これ、何ていう花だっけ……
と、そればかりを考えていた。
彼女が好きだった色も、こんな色だったっけかな……
その花がラベンダーだと教えてくれたのは、母だった。