僕たちの時間(とき)
 小学6年生の時、私の瞳(め)は光を失った。

 事故で車に接触した時の後遺症らしく、世界はいきなり黒い闇にぬりかえられた。

 それから私は盲学校に通っていたが、一昨年、角膜移植の手術をし、私の瞳は再び光を取り戻すことができた。

 そして、この中学へと転校してきたのだ。


『怖くないから…、ゆっくりと目を開けてごらん……』


 手術を終えて。包帯が外れて。

 医者(せんせい)の言葉に従い、ドキドキしながら、ゆっくりと私は瞼(まぶた)を押し上げていった。

 すると……、


(――うっ…わぁっ……!)


 まず映ったのは、辺りをピンク色に染めるような桜吹雪。

 一瞬にして目を奪われる。

 その花びらの向こうから……誰かが、来る……?

(誰…?)

 黒い服…学生服……?

(男の子……?)

 もう少しで……顔が見える……―――。


『美里(みさと)ちゃん?』


 医者(せんせい)の呼ぶ声でハッと我に返ると、その幻風景は瞬く間にかき消えて。

 私の瞳は、心配そうに私を見下ろす母と、医者と思しき白衣の男の人と、ただ病室の光景を、映しているだけだった―――。
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