僕たちの時間(とき)
  何も知らなかったあの頃

  2人一緒にいられれば

  それだけで幸せだと思っていた

  この世の誰よりも幸せだと思っていた

  幼い、あの頃の僕ら……―――






 今年も桜が満開になった。

 川の土手に沿って並ぶ満開の桜の樹々を橋の上から眺めながら、少しも変わらぬ風景に安堵する。

 僕は、かつて通っていた中学校へと向かっていた。川沿いにそれは在る。まるで土手の桜並木に包まれるように。

 橋の上から、僕は土手に降りた。

 ここをまっすぐに行けば、思い出の場所に辿り着く。

 中学校の、懐かしい桜色の場所に……。


 ――そう。

 全ての始まりは、そこからだった。






  僕らは何も知らなかった

  僕らは知らなければならなかった






 その日は〈卒業式〉だった。

 そして僕らは幸せから始まり、

 現実を…、――やがて迎えた……。






  粉々に砕け散った

  幸福(しあわせ)という名の

  思い出のカケラ

  突然降りかかってきた

  哀しみと絶望

  右も左もわからない

  光1つさえ無い夜に戸惑う

  ちっぽけな迷い子のように






 僕はここにいる。

 君と描いた夢を歩むため、ここにいる。


 そして今日。――君に、会いに行く。


 幼かった、かつての僕を連れて。

 新しい僕を伝える為に。






  始まりは幸せ

  そして行く手は闇に覆われ

  過酷な現実に立ち尽くす

  ――運命は

  僕らを何処へ押し流していくのか






 君との思い出と共に……。

 土手の桜並木を歩きながら、忘れ得ぬ過去へと、想いを馳せる。


 今日もあの時と同じ、桜色の卒業式の日―――。
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