僕たちの時間(とき)




「みぃ、あれから熱だして寝込んでるらしいの……肺炎までこじらせたらしくて……」

 隣を歩きながら、満月さんは言った。

「わたしもむぅも、ここのところ忙しくて、みぃの看病は母さん任せにしちゃってて……だから詳しくは知らないんだけど……」

「そうですか……」

 気にしていない風を装い、僕は軽く笑みを浮かべる。

 でも、勘の良い満月さんのことだ、とっくに僕の気持ちなんてお見通しだろう。

 僕達は病院へ行くために、バス停へ向かって歩いていた。

「大した病気じゃないんだから、元気出しなさいねっ!」

 気遣うように、満月さんは言う。

 確かにその通りだ。

 けれど、まだ何かが奥に引っ掛かっていて……まだ少し、気が晴れない。

 何も知らずに1人で考え込んでいた状態よりは、幾分か楽になったのは事実なのに……。

「病状は……?」

「母さんの話では、だいぶ落ち着いてきてるみたい。まだ微熱が続いてるらしいけど」

「そうですか…、安心しました」

「そーよ! つまらないことでウジウジ悩まないことね。これから行けばハッキリわかることなんだから。いい若いモンがそんなことしてちゃ、ハゲるわよっ!」

「そーなったら仏門にでも入りましょうかね?」

「イヤ、それはちょっと…! 君のボーズ頭は、見たくないっ……!」

「ひどいなぁ。“唄えるお坊サマ”とかいって有名になれるかもしれないのに」

「お経に曲でもつける気か、君はっ!!」

 ようやく僕らの間に笑いが生まれ、気分も少しずつ晴れてきて。

 僕達はそのまま、ちょうど来たバスに乗った。


 しかしまさか、本当に仏門に入ってしまいたくなるような事実が待ち受けているだなんて……!

 僕には全く、想像もつかなかったのだ―――。
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