僕たちの時間(とき)




「どうかしたの? 聡くん」

 エレベーターのボタンを押しながら、しれっとした顔で満月さんは言った。

 チンッという音と共に扉が開き、箱の中に乗り込んで。

 そして僕は聞く。

「何か変ですか? オレ」

「『変』てゆーか……何となく落ち着かないって感じかな? そわそわしてる」

 言われて思わずギクッとした。

 エレベーターが上昇を始める。2階までなんて、ほんの数秒だ。

 その数秒の間、僕は緊張しっぱなしだった。

 満月さんに感付かれないように、何とか平常心を保とうとして。

 だが2階に着き、フロアに降り立った時。

「――無理してる」

 満月さんが、僕を見上げてそう言った。

「わたしの言ったこと、図星でしょ? 胸の内では動揺してるのに、必死こいて隠してマスってカオしてる。さっきからずっと」

 やはりこの人には、隠し事だろーが何だろーが、通用してくれないらしい……それ以前に、僕が表情に出しやすい単純な性格してるっていうのも、あるのかもしれないけど……――まぁ、それは置いといて。

 引きつりながらも笑顔で答える。

「や、やだなぁ…! それはホラ、久々に水月に会えるから緊張するってゆーかぁ……」

「ホントにそれだけぇ……?」

 どうしてこう人を見抜くんだろう、この人は……。

「さぁとぉしぃくぅーんッ?」

 …ったく、僕の負けだ。

「そーですよ! オレ病院嫌いなんです! みっともないけど、このトシになっても苦手なんです! どーもすいませんねッ!!」

「ははぁーんっ…? さては昔、注射が嫌で逃げ回っていたクチだなぁ?」

「うっ、それわっ……!」
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