Loved you...


煙草の臭いが消えた頃
真樹と杉崎は恒例の
カウンセリングが始まった。

いつも通りの質問に
いつも通りの、変わらない回答。
だが今日は少し違った。

「朝飯は…」
「食べてないけど、
食べようって思えたよ」

一瞬驚いた表情を
見せた杉崎だが、
すぐにふわりと笑う。

「そっか…よかったな」

頭をよしよしと
撫でてくる杉崎に、
真樹は照れ臭そうに笑う。


「…セクハラきょーし」
「何言い出すんだっ」

照れ隠しで出た暴言に
杉崎はすぐに手を引っ込めた。

そこからの質問は
またいつも通り。

今日もまた、
1限目が終わる数分前に
カウンセリングは終わった。


「…やべ。職員室に
岡田の今日の課題を
置いてきちまったわ…」
「え、別に取りに
行かなくていいですよ。
あたしベッドで寝てますから」
「いや、ダメだから」

えー、と不服そうに声を
上げる真樹に杉崎は笑う。
とりあえずこっそりと
課題を減らしてやろうか、
なんてバカなことを考えながら
保健室を後にしようとした。

「そうだ!彼方先生」
「ん?」

振り向けば、
頬を紅く染め
はにかむ真樹。
自分の胸が高鳴るのを
確かに感じた杉崎。

しかし真樹の口から
紡がれた言葉は杉崎にとって
信じたくない事実。


「あたし人生初の
彼氏が出来ましたっ」

聞かなくても分かる相手。
昨日のあいつだろう、と。

「…そうか、良かったな」

口から出たのはそれだけ。
幸せになれよとは言えなかった。
自分が幸せにしたかったから。

そんな杉崎の気持ちも知らず
真樹は優しく微笑む。

いつもなら安らぐはずの
その笑顔も、今は心苦しい。

真樹に気付かれないように
目を逸らして歩き出す。

「…じゃあ幸せボケしてる
真樹チャンに先生からお祝いとして
課題3倍にして持ってきてやるよ」
「え、そんなお祝いはお断りします!」

また後でな、と
手を振りながら
保健室を後にする影。


授業中のせいで
静かな廊下を歩き
目頭を押さえる杉崎。

「あ~…なんだこれ」

目の奥に感じた痛さは
太陽の眩しさのせいにした。



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