薔薇色の人生
山田という守衛は鼻の下を倍くらいにのばし『なんだ、優子ちゃんか。遅れるから早く行きな。気をつけてね』と言って通行証をくれた。もう大学の構内なのに気をつけてもないもんだと思いながらも車を中に乗り入れて無事に時間内に到着した。『サンキュー。助かったよ』ベルトを外しながら優子さんは『さっきの約束だけど、アタシとデートしたいか?』と神妙な顔つきでこちらに目を向けた。その艶やかな目つきに僕は一瞬ドキッとしながら『早く行かないと遅刻ですよ』と促すと、優子さんは頬を膨らませながら走って建物に入って行った。大学を出るのに通行証を返却すると、山田は本当に兄だと思っているのか愛想よく送り出してくれた。やはり女って怖いなぁと思わずにいられない。牧場に戻ると、渉兄さんの赤いスカイラインが停まっていた。何の用事だろうと思いつつ中に入ると、陽一と兄さんが居間で話している。僕に気づき『よう。久しぶりだな』と言って席を立った。『もう帰るの?何の用事?』と訊くと『大した用事じゃない。近くまで来たので寄ってみただけさ』それが嘘である事は僕にもわかった。しかし、今訊いても理由を話してくれそうもない。渉兄さんは『強司、たまには家に顔だせ。父さんも心配している』と言って帰っていった。
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