薔薇色の人生
白昼の待ち伏せ
渉兄さんは運転しながら携帯電話を取り出した。『真田か?もうすぐそちらに着く。後はこちらに任せて優子ちゃんを渡してくれ。それから俺達は……何?逃げた?!』兄さんは暫く相手の言葉を聞いてから『わかった…。後で連絡する』と、言って電話を切った。深いため息を吐いてから『優子ちゃんが脱走した。5階のベランダから雨樋を伝って降りたらしい』僕はめまいがする思いを抑えて何とか卒倒しないで済んだ。『まずは優子ちゃんに電話してみろ』という兄さんの言葉に従い携帯を探したが…ない。『忘れてきたみたい』兄さんは目をグルリとまわして『まったく、お前らは…。牧場の番号は?』と、言って自分でかけようとしたが『ただいまお父さんは仲間と旅行中』兄さんは車を路肩に停め、ハンドルに身体を預けてうつ向いたまま動かない。さすがに僕は『兄さん、ゴメンよ。これが僕らのペースなんだ』渉兄さんの肩が震えている。怒らせてしまったか…と思いきや、低い笑い声をもらし、次第に大笑いに変わった。『本当に愉快な連中だな。よくも今までやってこれたもんだよ』と話しながら、まだクックッと笑っている。『兄さん、笑い過ぎ。それよりも今からどうする?』ようやく笑いが収まった兄さんが『そうだったな。まずは優子ちゃんを見つけないとな…。何処にいると思う?』僕は結露したガラスを指で拭きながら『優子さんの性格なら、まずは不動産屋の坂口の所へ怒鳴り込みに行くね。もしかしたら途中でお腹が空いて何か食べてるかも』兄さんは少し考えてから『牧場に戻る可能性は?』という問いかけに『う~ん…0%とは言えないけどなぁ』すると兄さんは『1%でも可能性があるなら戻った方がいい。奴ら、優子ちゃんが店に来ればいきなり手荒な事はしないだろうが、牧場に戻った彼女にハチ合わせたら何をするかわからん』確かにそうかもしれない。優子さんや僕らを探している連中はイライラしているに違いないし、ましてや若い女性が一人となると何をするかわからない。
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