好きだと、言って。①~忘れえぬ人~
「俺が、卑怯ってか?」
恐いくらいに、
真剣な浩二の眼差しが、私を射抜く。
その強い眼差しのまま、浩二はゆっくりと私の方に歩み寄ってくる。
――な、何よ。
怒ったって、
そんな顔したって、
恐くなんかないからねっ!
そう、心の中で虚勢をはりつつも、その迫力にたじろいだ私は、一歩、又一歩後ずさる。
そしてとうとう、壁際まで追いつめられしまった私は、壁に張り付いたままキッと浩二を睨み付けた。
ドン! と、私の顔のすぐ横の壁に浩二の拳が叩きつけられて、思わずビクリと身をすくませる。
「じゃあ、聞くが、好きでもないのに好きなフリをして、結婚しちまおうなんて根性の人間は、卑怯とは言わないのか?」
荒げるでもなく、むしろ淡々と。
浩二が放った言葉に、私はその場で固まった。
『好きでもないのに好きなフリをして、結婚しちまおうなんて根性の人間』
これでもかと。
心の一番もろい部分に、大きな楔《くさび》を打ち込まれた気がした。