好きだと、言って。①~忘れえぬ人~


「俺が、卑怯ってか?」


恐いくらいに、


真剣な浩二の眼差しが、私を射抜く。


その強い眼差しのまま、浩二はゆっくりと私の方に歩み寄ってくる。


――な、何よ。


怒ったって、


そんな顔したって、


恐くなんかないからねっ!


そう、心の中で虚勢をはりつつも、その迫力にたじろいだ私は、一歩、又一歩後ずさる。


そしてとうとう、壁際まで追いつめられしまった私は、壁に張り付いたままキッと浩二を睨み付けた。


ドン! と、私の顔のすぐ横の壁に浩二の拳が叩きつけられて、思わずビクリと身をすくませる。


「じゃあ、聞くが、好きでもないのに好きなフリをして、結婚しちまおうなんて根性の人間は、卑怯とは言わないのか?」


荒げるでもなく、むしろ淡々と。


浩二が放った言葉に、私はその場で固まった。


『好きでもないのに好きなフリをして、結婚しちまおうなんて根性の人間』


これでもかと。


心の一番もろい部分に、大きな楔《くさび》を打ち込まれた気がした。

< 117 / 223 >

この作品をシェア

pagetop