好きだと、言って。①~忘れえぬ人~
「あ、はい。ハルカさんとは高校の友人で、俺の従姉の佐々木亜弓と……」
女性の問いに、浩二は私を紹介した後、
私の傍らに立つ直也に視線を移して言い淀んだ。
浩二と直也は面識がないから、無理もない。
「篠原直也です。電話を頂いたとき、たまたま亜弓さんと一緒にいたので、同行させて頂きました」
雰囲気を察し、簡単な自己紹介をする直也に、浩二が胡散臭そうな目を向けるのを見て、思わずじろりと睨み返してしまった。
いけない。
今、ケンカなんてしてる場合じゃない。
「そう。あなたが、亜弓さん……」
その女性、ハルカのお母さんは、やはりハルカによく似た大きなライト・ブラウンの瞳を細めて、
遠い日の出来事に思いを馳せるような、どこか懐かしげな眼差しを私に向けた。
「なんだか、初めて会った気がしないわね……」
そう言って、微かに口元をほころばす。
「あの子が高校に入学したばかりのころ、『素敵なお友達ができたのよ』って、毎日のように、あなたの話を聞かされていたから……。
あなたが来てくれて、ハルカもきっと喜んでいるわね」
おばさんの瞳の中に、揺らぐ感情の波。
どれほど心配されているか。
他人の私だって、どうにかなってしまいそうなのに。
私は鼻の奥にツンと込み上げるものを押しとどめながら、もう一度、深く頭を下げた。