好きだと、言って。①~忘れえぬ人~

「あーちゃん」


財布入りのショルダーバックを掴んで、病室を出ようとした私の背中越しに、ハルカが声をかけてきた。


「うん?」


振り返り、首をかしげる私に、ハルカはいつものはにかむような微笑みを向ける。


真っ直ぐなライトブラウンの瞳には、ただ穏やかな光がたゆたっていた。


その傍らには、ハルカを愛おしげに見守る浩二の姿。


――幸せなんだよね、ハルカ。


ハルカは、浩二と出会えて、きっと幸せなんだよね。


浩二とハルカの間に、どんな恋物語があったのか、私は知らない。


だけど。


浩二のあのやつれ具合から、その道が平坦なものじゃなかったことぐらいは、想像がつく。


きっと。


色々な葛藤や障害を乗り越えて、今の二人があるのだろうって、そう思う。
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