好きだと、言って。①~忘れえぬ人~

「何よ、それ。どこに肉なんか付いてんのよ?」


助手席から、運転席の浩二の下腹部にチラリと視線を走らせたら、


「見るなよ、亜弓の、エッチー!」と、言われしまった。


二十五歳のいい年した大人の男が言うセリフかい?


ああ、もう。


こう言うヤツだった、こいつは。


具合でも悪いのかと、心配して損した。


ため息を付きつつ視線を上げると、フロントガラスにポツリと水滴が落ちてきた。


それを皮切りに、次々に落ちてくる雨の粒。


「あーあ。とうとう降り出しちゃったね、雨」


「ああ……」


パタパタと、フロントガラスに、大きめの雨粒が丸い模様を描いていく。


動き出したワイパーの向こうに見えてきたのは、県下でも一、二の規模を誇る『中央病院』。


地下二階地上四階建てのこの白い建物は、最近建て直しされたばかりで、見るからに真新しい。


ここには、国内でも名医と名高い心臓外科のお医者様がいるのだそうだ。


ハルカは、そのお医者様の執刀で、心臓の手術を受けることになっているのだとか。

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