水とコーヒー
#6
両親の寝室は、畳敷きの六畳間だった。壁際にタンスが二つ。西側のベランダに続く窓。押し入れには布団と衣装ケース。ミシンなんかも入っていたと思う。タンスの一つは和箪笥で、母の着物なんかが入っていた。

だから両親の部屋は少し変わった臭いがしていた。樟脳の臭いと、畳の臭い。そして両親の臭い。僕はこの部屋が好きだった。この部屋の臭いが好きだった。そこには懐かしい原風景の一つがあった。

そのはずだった。

先輩に導かれるままに、そして先輩を導きながら辿り着いた僕の意識の中の両親の部屋。そこの襖を開けると、そこに広がる畳のこじんまりとした部屋の中央に見知らぬ女性が俯せに倒れていた。

先輩に「死体を探す」そう云われていたからというのもあるだろうが、一目に見ても彼女、いや“それ”が死体であることは明白だった。

長い髪、青白い肌、青ざめた顔。表情は見て取れない。

血が流れているわけじゃない。大きな傷があるわけでもない。

どこか身体に欠損部位があるとかそういうわけでもない。

だが、そこにあったのは明らかに死体だとわかった。
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