水とコーヒー
ドアコックに手をかけ、僕は軽から降りようと身をかがめた。

外にでて冷たい朝の空気を吸い込むとドアを再びしめる。先輩が窓を開けて「今日は昼過ぎまで寝てなさいね」と微笑みながら云う。

僕は「はい!」と返事をしてから、サイドブレーキを外して走り出そうとした先輩に、もう一度声をかけた。

「先輩!もう一つだけ、いいすか!」

「なーによもう。最後にしてよー?」

「はい!これで本当に最後です!あの、『いちにぃさーん・ごーろくしちはち』って、どんな意味だったんですか?」

「あー、あれはね。おまじないよー」

笑いながら応える。

「だから、どんな意味の?」

「数字に直せば簡単よー。1から9までで抜けてる数字はどれ?」

「4と9ですね」

「そうそう。4と9がない、つまり『死と苦はなし』って意味!」

「ああー……なるほど!」

「言葉にはね、力があるのよ!それじゃおやすみなさーい」

「あ、はい!ありがとうございましたー!」

ミラー越しに手を振りながら、先輩の車は交差点を曲がっていった。
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