愛音-あいおと・短編
愛の音
「俺は今まで何の為に何を大切にがんばってきたんだろう。」

早紀の為、舞の為、家族の為と、今までがむしゃらに仕事に打ち込んできた。

少しでも給料を上げて、少しでも生活が楽になればと・・・、

「全て俺の勝手なエゴだったのかな、」

何の為に頑張ってきたんだ。

「俺の大切なものは何なんだ。」

早紀は高給取りの俺を望んでなんかいない。

舞だって会社で偉いお父さんを望んでなんかいない。

少なくとも、二人とも俺にそんな要求など、一度もしていない。

二人ともささやかでも、質素でも、確かな幸せを望んでいたのだ。

現に、舞はハワイ旅行でもこの公園でも、"パパ""ママ"がいればどこでも楽しいのだ。

俺は家族の為といいながら、何時しか区別がつかず、自分の為になっていたのだろう。

この名も無い花も、鉢の中で咲き誇る花に負けない美しさがある。

綺麗に力一杯咲いている。

みんな振り返る鉢の花は、こんな固い土で、みんなに踏まれても咲き誇る事など出来ない。絶対に。

「パパーっ。綺麗なお花。」

舞が、名も無きその花を小さい両手一杯に摘んで持ってきた。

「ああ、綺麗だね。」

良平はその花を受け取ると、その花を優しく近くの草花に戻し、

「舞、帰ろうか」
「うん。」

良平は舞の小さい清らかな手のひらを握りしめた。

早紀の事を許すには時間がかかるだろう。

駄目かもしれない、でも、ゆっくりでも少しずつ少しずつ積み重ねて行こう。

小さくても、確かなものを。この小さい手のひらは、こんな俺の手を力一杯握りしめてくる。

空一杯の真っ赤な夕焼けが、家路を急ぐ二人を穏やかに優しく包み込んだ。
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