ふわふわのいた町
悠々
あたしの名前は悠々。悠々自適の悠々と書いて「ゆうゆ」と読む。友達も可愛いって言ってくれる。最近では自分でも悪くないかなって思う。小学生の頃だったかな。
〈々〉って何?記号じゃん。
お父さんにも文句言ったことがある。
「〃にしなかっただけありがたく思え。」
リビングのソファに寝っ転がってうそぶく。そういうときのお父さんは結構、憎たらしい。お父さんは〈ゆうゆう〉にするつもりだったらしい。名前の響きと悠々の字面っていうの?書いた時の感じがとても気に入っていたらしい。初めての子供の命名で軽い興奮状態。お母さんは、
「ちょっとパンダみたいね」
と感想だけ述べた。基本的にこういう時に何を言っても無駄だと知っていたから。それで、お父さんはお母さんと一緒に市役所の戸籍係の前にも意気揚々と現れた。
実のところ、お母さんは〈々〉は使えないと思っていた。でも、お父さんの性格を良く知る妻としては、役所ではっきり言われたらあきらめるだろうと踏んだのだ。
「駄目ですね。々は記号ですから名前には使用できません。」
そう言ってくれると信じていた。ところが、全く問題がなかったのだ。戸籍係はすんなりと受け付けてしまった。お母さんはその時点で改めてあせりだした。戸籍係の持っていた出生届をひったくった。
「ちょっと、待ってて!」
戸籍係をひとにらみしてから、お母さん、今度は本気で反対しだした。
「絶対、パンダみたいって言われる。子供が将来、いじめられたり、からかわれたりしたらどうするの?」
でも、妻は夫の性格をいまひとつ読み違えていたらしい。完全にお父さんは意固地になった。お母さんは戸籍係を味方にしてタッグを組んで説得に努めた。
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