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「それがね、いくら呼んでも出てこないのよ。『帰ってくれ』の一点張りで、もう20分もよ。おかしいでしょ。」
 京子はヨッタに切々と話す。その様子は、ヨッタにとっては、狂おしい物だった。     

『京子…そこまで貴ボンの事を…』堪らずヨッタは貴ボンの部屋のドアを叩きだした。

「貴ボン!居るんだろ、分かってんだぞ!まったく京子まで呼びやがって。」

 ドンドンドンドンと激しくドアを、叩くヨッタ。

「ヨッタか?悪りぃ、帰ってくれ…」
 部屋の中から声が聞こえた。貴ボンの声だ。

「おい貴ボン!出てこいよ。貴ボン!」
 ドンドン…再びドアを叩き続けるヨッタ。

「…貴ボン。」
 後方で京子が呟く。ヨッタは後方を振り返った、京子が右手で顔を塞ぎ座り込んだ。

「京子…」

 ヨッタと貴ボンはライバル同士だった。何が、と言うと、京子を巡ってだ。

 会社のアイドル京子は、何故かこの二人とつるむ事が多かった。だからこそ、今日の貴ボンの抜け駆けは、ヨッタに取って許しがたい事であった。だが今の京子の反応を見る限り、『貴ボンの方に比重が行っている。』そう思った。


『あれ?コンタクト、どこに…』落ちたコンタクトレンズを探す京子。


「くっそー貴ボン開けろ!」
 ヨッタの体が微かに赤みを帯びる。ドアに向かって、拳を叩き込んだ!

 ドカッ!

 スチール製のドアが吹き飛んだ。


「貴ボン。」
 ヨッタは部屋へと進む。中は真っ暗だった。

 だが、ガサガサと人の動く気配はする。

『確かスイッチはこの辺に』ヨッタは手探りで電球のスイッチを入れた。

『見つかってよかった。』京子も部屋に入って来くる。

「く…来るな、帰れ!」
 部屋の片隅にポコンと盛り上がった布団の固まりがあった。声はそこから聞こえる。

 その言葉を無視して、ヨッタは近づく。

「どうしたんだよ、貴ボン!」
 そしてグッとその布団をはぎ取った。



『や…やっぱり』一点を見据えるヨッタ。



『……』あまりの事に声も出ず、口を両手で押さえ、やはり一点を見据える京子。



『あ…』布団をはぎ取られ京子と視線の重なった貴ボン!
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