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 その頃、本牧ふ頭近辺の海を、ザバザバと泳ぐ者の姿があった。

 青白く輝く巨大な橋の元、“それ”は黙々と泳ぎ続ける。




「ジャスの奴、大丈夫なんだろうな。」
 焼肉祭りに興じる人々を尻目に、乱宮が木網に囁いた。

「大丈夫でちゅ、トラしゃん…いや、乱宮さん。正義王ジャスですよ。嘘は言わないですよ。」
木網が肉を頬張り言った。

「そうだな。ジャスなら、英雄(ヒーロー)だって“瞬殺”だろうしな。」
 乱宮は一升瓶をラッパ呑みする。

「乱宮しゃん!駄目です、酔っ払っちゃ。これから社内に潜入して、鉄板かっさらってくるんでちゅから。」
 木網が慌てて止めた。

「おっと、そうだな。鈍平の奴、家中穴だらけにしやがって。」
 乱宮は家族で焼肉を楽しむ鈍平親子を睨む。

「僕、鈍平呼んでくるです。」
 言って木網が小走りに駆け出した。



「鈍助!口元見えるぞ、隠せ。ヒー」
 鈍平が鈍助に注意する

「いけねえ。スー」
 その言葉に、鈍助は左手で口元を隠した。

「でも、お父さん。口を隠しながら食べるの、疲れちゃうわ。それに、この口食べずらくて。スカー」
 鈍子が愚痴る。しかしそれでも、肉をさぐる箸の動きは止まらない。

「…そうだな。シメジに頼んでみるか。ヒー」
 鈍平が同意した。

「鈍平さん。乱宮しゃんが呼んでます。」
 そんな鈍平親子の元に木網が近づいた。

「乱宮が?分かった。ヒー」
 鈍平は承知する。

「くるですよ。」
 木網は踵(きびす)を返し戻って行く。鈍平も渋々ついて行った。
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