アリスズc
∠
「ハレイルーシュリクス殿下に、お会いしました」

 控えの間に帰って来たテルに、ヤイクがそう告げた。

 笑みは、そこにはない。

 ヤイクが、笑っていなかったのだ。

「何があった?」

 彼のことだ。

 どうせ、ハレにも毒っぽい話を振ったに違いない。

 その返答で、ヤイクは笑いを消してしまったのだ。

「ハレイルーシュリクス殿下は…太陽になる気がないようですな」

 その言葉は、おそろしいほど滑稽に、テルには映った。

 ああ、そうか。

 そういうことだったのか、と。

 最初から。

 本当に最初から、ハレは自分をハメたのだ。

 ヤイクを勧め、ビッテを勧めた。

 その腹の内を、いまようやくテルは理解したのである。

 余りのおかしさに、彼は大きくのけぞりながら笑ってしまった。

「わ、我が君?」

 突然の爆笑に、ヤイクを驚かせるほど。

「いや、いい…頭がおかしくなったわけじゃない。昔の己の浅はかさがおかしかっただけだ」

 子供の身なりをしていた頃の自分は、結局のところ頭の中身まで大人ではなかったのだ。

 いま考えれば、こんなにしっくりくることはなかったというのに。

 ハレは、最初から太陽になる気がなかった。

 テルが太陽になるために彼は心を砕き。

 そして、旅の中で、なりたいと思わせたのだ。

 素晴らしい策士ではないか。

 我が兄ながら、あきれてしまうほど。

 そして、素晴らしく無欲だった。

 母に。

 本当に、ハレは母に似ている。

 善良なのだ。

「俺は…悪人になれるか?」

 悪人は、善政も出来る。

 善人は──悪政は出来ない。

 テルは、ヤイクに笑った。

 彼の文官は、答えた。

「我が君が…そう望むのなら」

 太陽になる気のない者に、その席を譲る馬鹿ではないのならば。

 ヤイクは、そう言ったのだろう。
< 222 / 580 >

この作品をシェア

pagetop