アリスズc

「最悪の相手ですな」

 ヤイクは、そう言うだろうと思っていた。

 そして、そのままの言葉をテルに向けたのだ。

「太陽妃の時とは、ワケが違いますからね」

「そうだな」

 母は、この国にとって無害だった。

 その血筋が、たとえ高貴なものでなかったとしても、本当に無害だったのだ。

 だが、あの白い髪の娘は違う。

 月の血筋なのだ。

 いまだ、太陽に敵対する勢力。

 彼女自身が、どういう思想の人間であるか。

 そんなことは、まったく関係ない。

 その血が、太陽と混ざることを反対しない人間の方が少ないだろう。

 納得しながらも、テルは頭を痛めてはいなかった。

 まず、ハレの身内に味方がいる。

 少なくとも、母は間違いなく息子の味方をするだろう。

 父とテルは、公式には認めることが出来ない。

 だから、何らかの措置を講じる必要はあるものの、いくらでも道はあるように思えた。

 ハレは、細く頼りなげな外見をしているが、肝は据わっている。

 もし、イデアメリトスの名をはく奪されたとしても、おそらくそれに抵抗することもないだろう。

 たとえ──その髪を短くすることになったとしても。

 だが。

 テルは、違うことも考えていた。

 ハレが、自ら道を作る可能性だ。

「国が…割れるかもしれんな」

 彼の独り言に、ヤイクが敏感に反応した。

 とんでもないと、言わんばかりの表情だ。

「俺は…少し興味があるぞ」

 同じ母親から、ほぼ時を同じくして産まれた、正反対の二人の子供。

「ハレと俺が戦ったら…どちらが強いのだろうな」

「そんな戦いが起きないよう、未然に防ぐのが…政治ですよ」

 ヤイクの声は──本当にうんざりとしたものだった。

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