アリスズc
∞
「そういえば、武の賢者の奥方は、豪気な方だったね」

 暗い宮殿の話題よりも、伯母の話をハレは笑顔と共に受け入れてくれた。

 桃と彼の、二人きりの応接室。

 私的な話が、出来る環境だった。

 旅立ちについても、すんなりと了承してくれる。

 しかし、そうなると連絡役がいなくなる。

 いないならいないで他の方法もあるのだろうが、桃は一応エンチェルクへと話をつけていた。

 彼女ならば、この仕事の適任だと思ったのだ。

 そして、快く引き受けてくれ、桃は肩の荷を下ろすことが出来たのである。

「リリュールーセンタスも、喜んでいるだろう」

「ええ、それはもう静かに喜んでます」

 桃の受け答えが面白かったらしく、ハレは珍しく声を出して笑っていた。

 その笑いが、すぅっと消える。

「それで…」

 静かな笑みに色を変えた彼が、声も静かに整えた。

 空気で分かる。

 コーのことを聞きたいのだ。

「トーおじさまと会いました」

 ハレが、目を伏せる。

 本来ならば、喜ばしいはずの事実は、彼にとっては目を閉じるべきことなのか。

「コーは、私の母に言葉を習い、トーに歌を習う生活をしています」

 その姿が、少し痛ましく思えて。

 桃は、事実だけを並べることにした。

 そうしたら。

 もはや、これ以上続ける言葉はなかったのだ。

 黙っていると。

 ハレが言った。

「モモの目から見て、どう思うかい?」

 何を、言わせたいのか。

 彼が、安心したいのか、絶望したいのか分からなかった。

 桃の持つ答えは、どちらでもあり、どちらでもないのだ。

 愛ならある。

 あの二人の間には、間違いなくそれがある。

 しかし、それがどんな色なのかと聞かれたら、彼女には判別できないのだ。

「この世で、たった二人だけの仲間…そんな風に見えます」

 だからやっぱり──事実しか言えなかった。
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