アリスズc
∞
 ピューーイ。

 ソーが鳴いた。

 余り鳴かない鳥だけに、桃は空を見上げる。

 どんよりと曇った空。

 ソーは、大きく桃の上空で輪を描いた。

 街道の脇の森から、男が顔を出したのは、桃が空から視線を下ろした次の瞬間。

 30前くらいのその男が、辺りをうかがうような素振りをした時。

 桃と、目が合ってしまった。

 相手は、ぎょっとはしなかった。

 だが、一瞬だけ忌々しそうな表情を浮かべた気がする。

 誰にも会いたくなかったようだ。

「若い女が、一人旅かい?」

 癖のある伸びかけの黒髪に、褐色の肌。

 無精ひげは、わざとなのか面倒くさいからなのか。

「ちょっと親戚のところまで…」

 軽く受け流す。

「そう警戒しないで、俺は動物や植物の調査をしていてね…森や山の中に分け入ってるだけさ」

 肩から提げるずた袋を、彼女に向けてちらっと開けて見せる。

 確かに、植物の葉などが多数押し込まれていた。

 植物の?

 太陽妃やジリアンのことを思い出して、桃はそこに引っかかった。

 彼女ら以外にも、植物について調べている人がいるのか。

 言葉を飲み込みかけた桃は、しかし、そうするのをやめた。

 その言葉を、丸呑み出来ない何かがあるように思えたのだ。

 挙句。

「女性一人だと危ないだろうから、次の町まで送っていってやろう」

 などと言い出す。

 気軽に肩に触れようとしてきたのを、ささっとよけた。

「殿方と一緒に歩くと、母に叱られますから」

 あなたを警戒しているのは、怪しい人物だからではなく、男だからです──そういう意味を言葉ににじませ、桃は彼から距離を取った。

 だが。

「ぶっ、ぶわははははは!」

 そんな彼女の嘘は、男を大笑いさせただけだった。

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