アリスズc
∞
 帰りは、リスがよく送ってくれた。

 それほど遅い時間にならないように彼の工房を訪れているので、送ってもらうほどのことはない。

 だが、それはどうやら彼の趣味の一環らしいので、桃も取りたてて拒みはしなかった。

 テテラの足に合わせた、ゆっくりとした帰り道。

 リスは、女性を楽しませる話をいくつも持っていて退屈はしなかった。

 だが、今日の彼は二つの受難を味わうこととなる。

 一つ目は。

「…………」

 何だろう。

 桃は、嫌な予感がした。

 殺気だった何かに、見られている気がしたのだ。

 建物と建物の間の細い路地。

 その影になった部分から、それを感じた。

 桃はそこに何がいるのか気づきつつ、足を止めて路地を見た。

「どうしたの?」

 テテラもまた、視線を向けると。

「あら…イーザス」

 殺気など、存在しないかのように彼女はそう呼びかけるのだ。

 出たぁ。

 そんな正直な桃の気持ちが、軽い汗とともに表面化する。

「し、知り合いですか?」

 リスは、一瞬にして身を引いた。

 彼の目から見ても、明らかに危険人物だと分かったようだ。

 そんなイーザスの殺気が向けられていたのは。

 ゆらり。

 路地から出てきた彼は、迷うことなくリスに向かっていたのだ。

「待って、この人に手を出さないで」

 桃は、即座に二人の間に割って入った。

 この男が、どんな誤解を頭の中で巡らせているかなんて知ったことではない。

 だが、彼に手出しをさせるワケにはいかなかった。

「イーザス…この方はね」

 テテラの声が、穏やかに割って入る。

「この方は…私の足を作ってくれているのよ」

 その言葉は、彼の歩みを止めるのに十分すぎる威力を持っていた。

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