アリスズc
@
「ここにいる女を引き渡してもらおう」

 武の賢者宅は、災難に見舞われていた。

 見知らぬ男が4、5人で、押しかけて来たのだ。

 応対に出ていたのは、レチ。

 騒ぎを聞きつけ、エンチェルクは階段を下りているところだった。

「女とおっしゃいましても、どなたのことでしょうか? それ以前に、どちらさまでいらっしゃいますか?」

 男たちの態度が、余りに不躾なせいか、はたまた元々機嫌が悪かったのか。

 にこにこ仕事をするレチとは思えないほど、頑迷な態度だ。

「我らは天の賢者殿の遣いの者である」

 居丈高に、己が主人の名を語る。

 よりにもよって、こんな時に。

 エンチェルクは、歯噛みした。

 武の賢者は、今回の遠征に参加しているために、都を離れているのだ。

 そして、その妻であるキクは道場へ行っている。

 いや、こんな時だからか。

 二人の留守を、天の賢者は見計らったのだ。

 ロジアを連れて行ってしまえば、こっちのものだと言わんばかりに。

「ああ、そうでございますか。けれど、こちらは武の賢者様の屋敷です…狼藉は許されません」

 レチは、負けていなかった。

 玄関先で、男たちと互角に渡り合っているではないか。

 これはもしかしたら、レチが撃退出来るかもしれない。

 エンチェルクは、階段途中で足を止め、少し様子を見ることにした。

「それは後で賢者殿が話をつけられる…いいから、よそから来た女を渡せ」

 男の言葉に、レチの首が斜めに傾いた。

「よそから来た…? それは、私の事ですか?」

 彼女の知るよそ者など、自分だけだろう。

 レチが来た時、すでにロジアは当たり前のようにこの屋敷にいたのだから。

 あっ。

 いやな予感のしたエンチェルクは、慌てて玄関に迫ろうとした、が。

「きゃあああ!!!」

 多くの手が。

 ふくよかな彼女を、あっという間に玄関から引っ張り出し、荷馬車へ放り込んで行ってしまったのだった。


< 497 / 580 >

この作品をシェア

pagetop