アリスズc

 リリューは、自分の妻になる女性を見た。

 普段は着ないだろう明るい朱の衣装は、伯母からの贈り物。

 赤い髪飾りは、母からの贈り物。

 腕に抱えている白い花束は、太陽妃と桃とコーから。

 親戚が遠いところにいる彼女のために、近い女性たちがみな心を砕いてくれた。

 一方、リリューは袴姿。

 伯母に縫ってもらっていながら、なかなか袖を通すタイミングを逸していた衣装だ。

 無駄に背の高い自分には、少し似合わないと思いながらも身に付けたのだ。

「奥方は北部生まれか……都では珍しいな」

 ちらとレチに視線を投げた後、こちらに近づいてきたテルの一言目はそれだった。

 言葉の中に、微かなひっかかりがあるのは、彼女の町よりも北に住む一族のせいか。

「何か……問題がありますか?」

 リリューの声は、いつもより低かったはずだ。

 この結婚に、何らかの問題があると言われるならば、リリューは彼女を連れて都を出るだけだった。

「いや、ない……あるとするなら、お前との接点か? どこでひっかけた?」

 その覚悟の片鱗が、垣間見えたのだろうか。

 テルは、苦笑いを浮かべながら、話を違う方向へと流す。

「イエンタラスー夫人の屋敷だよ」

 答える前に、ハレが現れた。

 一緒に旅をしていた相手だけに、どうやらレチのことは知られていたようだ。

「おめでとう、リリュールーセンタス。学術都市に、道場を作ってくれるそうだね……楽しみにしているよ」

 ハレとは、長い付き合いになるだろう。

 都市の長となる彼と同じ地域に住み、それぞれの道を歩くことになる。

「私も、都市に入ることになりました」

 ハレの少し後方から現れたのは──ホックスだった。

 彼ほど、その都市に相応しい人間もいないだろう。

 内にこもるものではなく、多くの人々と研磨し合う勉学。

 いまの彼ならば、きっと教える立場になることが出来るに違いない。

 結婚式の日に相応しい、晴れやかな未来の話。

 レチも、幸せな気分を味わっているだろうか。

 目を向けた先の彼女は。

 女性たちに囲まれて、恥ずかしそうに微笑んでいた。

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