ナンセンス!
どいつもコイツも・・・!

1

部屋に戻ると、サバラスがベッドの上で寝転びながら、ノンキに単行本小説を読んでいた。
・・・熱湯漬けにしてやろうか、コイツ・・・!
手足を縛って、ブロックと共にバスタブに沈めるのも一興かもしれん。 僕のベッドで、優雅にくつろぎやがって、この野郎~・・・! 今、僕が、どんな苦労をして、フロに入って来たと思ってんだ・・・! 水死しそうになったんだぞ、てめえ。 分かってんのか?
濡れた髪を、タオルでゴシゴシ拭きながら、僕は言った。
「 また来てんのか、お前。 公園脇に止めた、車の中で寝ている営業マンみたいだな。 ちゃんと仕事しろよ! 」
「 失敬だな、君は。 今、人間の文化について、最先端科学の論評を、解読しているところなのだ 」
科学だと・・・?
どう見ても、お前が読んでいるのは、太宰の『 斜陽 』だぞ?
日本文学を探求するのも良いかもしれんが、現状打破にもっと奔走せえ。
サバラスは言った。
「 いやあ~、やっぱり太宰は、イイねえ。 豪快に笑わせてくれるトコが、ニクイねえ~ 」
・・・ドコ読んだら、太宰で笑えるんだ? お前、日本文学、おちょくっとるんか? タコ。
サバラスは続けた。
「 井伏鱒二の『 本日休診 』も、元軍人の男が主人公で面白かったね。 うん。 新田次郎の『 沈黙 』には、涙したな。 私的には、夏目漱石の『 こころ 』が、好きだ。 特に、ラストシーンは圧巻だね 」
・・・お前、ムチャクチャ、言っとるな?
『 沈黙 』は、遠藤周作だ、たわけ。 『 こころ 』のラストは、敬愛する先生の遺書が、56章に渡って、綴ってあったはずだ。 ラストシーンって、ナンの事だ、コラ。
それと、『 本日休診 』に、軍人が出て来たっけか・・・? それ、『 遙拝隊長 』だろ?混同させた上に、勝手に存在しないストーリーを論評するな!
サバラスは続けた。
「 新田次郎は、『 女学生 』も読んだなあ~ 」
それは、赤川次郎だ、マヌケ! 元、気象台勤務の新田次郎( ペンネーム )が、そんな題名の小説を書くか。 登山ものとか、孤島ものだわ、たわけが!
もう、お前、知らん。 アホのたわ言は無視し、僕は、早々に、寝る事にした。
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