思い出のフィルム
「私ですか?私は・・・私も宛はないです」

彼女はやや迷った視線を送りながらも、きっぱりと返してきた。そして彼女は私の方を向いて突然頭を下げた。

「ここで会ったのも何かの巡り合わせ・・・お願いします。私を助手にしてください」

彼女は頭を下げ、深くお辞儀をした後さらに続けた。

「カメラマンさんなんですよね?私、カメラマンになりたくて・・・植草さんが表現するような綺麗な情景に憧れて・・・私もそんな世界をこの目で見て、誰かに伝えたいと思っています」

彼女はそう言い終わらないうちに、徐々に声が小さくなっていった。
突然押しかけたように言ってしまったと思ったのか、最後の方は口ごもっていた。

「とにかく、ここでは暑いから、次の列車に乗ろうか」

私は次の電車に乗り換える前に、近くの自動販売機でコーヒーを2つ買い、取り出し口に手をのばした。

「熱っ!」

私はとたんに手を放して缶コーヒーは自動販売機の取り出し口の中に再び入って行った。

「あ、真夏にこんな熱いものが売ってるなんて・・・うっかり押してしまった」

すると、隣にいた彼女がお金を入れて、アイスコーヒーを二つ買って、片方を手渡してくれた。

私はとても恥ずかしくて耳を赤くしながら、熱い缶コーヒーを鞄にしまった。

それから私と彼女は近くのローカル線に乗り換えて、涼しいクーラーの効いた列車の中で自己紹介を始めた。

「私の名前は植草英治。カメラマンってのは自称さ。本当はネイチャー特集のネタを文章化するだけのただのライターなんだ。カメラマン志望だったけど、腕が全く上達しない」

彼女をがっかりさせたかもしれないと思い、隣の彼女の表情を伺った。

彼女は何も気にした様子もなく、私の方を見て笑って見せてくれた。

「そうなんですか。もしそうなら、さっきの話を少し変えて、私をパートナーにしてくださいっていうのはどうでしょうか?」
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