彼はチョコレートが嫌い
「あ、警戒してる…」

少し傷ついたように小声でいうと、彼は車から降りた。

「まずは身分証明ね。ハイ、俺の免許証」

あたしの目の前にビシッと小さなカードを突き付ける。

免許証には確かに同じ爽やかな笑顔があった。

『澤木淳弥』という名前と、住所が確認出来る。

しかも住所は六本木だ。
黄色のスポーツカーが違和感なく許される世界の人みたい。

「…サワキさん、わざわざありがたいですけど、あたし、自転車ありますから」

どうやったって、この黄色のスポーツカーには載らない。

「うん、残念だけどそうなんだよね」

澤木さんは腰に片手を当てて自転車を見つめた。

ほんと、ありがたいんだけど。
でも初対面の人の車に乗るのは躊躇う。

いくらここが田舎だとしても。
いや、田舎だからこそ。

太陽はぎらぎらと照り付けていて、あたしは吹き出す汗をハンカチで押さえた。

なんだか気持ち悪い気もする。

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