天国への階段 ―いじめ―
――キーンコーンカーンコーン……
チャイムが鳴った。一時間目の始まりだ。
「あっ!
一時間目、ユウちゃんの授業じゃない?
こんなヤツにかまってられないよぉ」
麗子の声がしてきた。
ユウちゃんというのは、この春来たばかりの、若い男の先生だ。ルックスが良く、女子生徒のお気に入りだ。麗子たちも、しょっちゅう追っかけをしている。
「英子、亜未、急いで」
万里香だ。麗子はもう女子トイレを出て行ったのだろう。
キュッキュッという音の後、水が止まった。ふと、“節水”という言葉が頭に浮かび、英子も節水を気にかけているのかな……と、心の隅でひとりむなしく笑った。くだらなさに可笑しくなる。
亜未はモップを個室に落とし、英子も水の出ないホースをそのままにして去って行った。
私は、その場にしゃがみこんだまま、放課後のチャイムが鳴るまでじっと目を閉じていた。