天国への階段 ―いじめ―
「先生、あたしのサイフが無いんです」
あの日の二時間目、一時間目の体育が終わってみんなが教室に戻って来たとき、英子が言った。
教室内がざわめきだす。
盗難事件が相次いでいたからだ。
「本当か?」
面倒くさいことになったとうろたえた吉木が、頬を引きつらせながら言った。
「本当です。登校してきたときは確かにあったのに……。ないんです」
「その……いくら位入っていたのか?」
「三万くらいです。ちょうどおばあちゃんにおこづかいもらってて」
その、中学での盗難にしては大金と言ってもいい数に、吉木は眉間に皺を寄せた。
面倒くさい。
明らかにそう言っているのがわかる。