1970年の亡霊
 三枝も、前職は警察とはまるで無関係なコンピュータソフトの開発会社を自ら経営していた。

 ソフトの開発者としては優秀であった三枝であったが、経営者としての才覚が無かったのか、独立して二年足らずで会社を手放した。

 丁度その頃に、新設されたサイバーパトロール課の職員募集を目にし、警察という職務に興味もあって採用試験に挑んだ。

 結果は、試験管から最高評価を受けたが、面接時の評価は応募者中最低であった。

 三枝の採用に反対する意見も多かったが、結局はその実務能力を評価し、民間から初の捜査員採用となったのである。

 採用された当初の上司は、若い女性キャリア刑事で、警察官特有の物堅さは微塵も感じられず、又、コンピュータに対する知識も三枝が驚くほどに持っていた。

 その元上司である三山警視に、三枝は仄かな恋心を抱いていた。

 プライベートでは、ただの一度も二人だけで食事や飲みに行ったりした事は無かったが、同僚達とはよく一緒に飲み会に付き合った。

 女性キャリアでありながら、お高く留まった所は無く、その気さくさにも惹かれたのかも知れない。

 この人の為ならば、どんなに困難な職務でもやり遂げてやる……

 そう思いながら毎日顔を会わせるのが楽しみだった。

 三山から声を掛けられる事が、三枝にとって無上の喜びであった。

 それが、この春に突然の異動。

 三枝にとって、蜜月のようなひと時だったものが奪われた。しかも、後釜はどうしようもない無能者。

 そういった三山に対する感情をこれまで誰にも打ち明けたり、見せたりする事は無かったから、所詮三枝の独り相撲ではあったが。


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