1970年の亡霊
「あれから一年も経っていないのに、僕の顔を忘れるなんて冷たいなあ」

「あのなあ、俺がこの世で一番嫌いなのは犯罪で、二番目はその事件をさも判ったかのように面白おかしく書くブン屋なんだ。犯人の顔は一旦見たら忘れねえが、事件記者風情なんか、会った傍から忘れちまうように脳ミソが出来てんだよ」

「口の悪さは相変わらずですね。そういった事も災いして、捜査の一線から外されたんすか?」

「都落ちしたしがないデカに興味を持つような能無しブンヤと、仲良く座談会する趣味はねえよ」

 そう言って自販機の前に立ち、缶コーヒーを買おうとしたが、ここには自分の好みの銘柄が無い事に気付き、加藤は引き返そうとした。

「加藤さん、確かこの銘柄の缶コーヒーしか飲まないんですよね。コンビニで買って来たのが丁度一本ありますから、良かったらどうぞ」

 差し出された缶コーヒーには目もくれず、加藤はその場を立ち去って行った。

「イケちゃん、あのデカさん知ってんの?」

 二人のやり取りを近くで見ていた東都新聞の記者が聞いて来た。

「本庁でちょっとね」

「本庁という事は、応援?ひょっとして、この事件千葉県警だけじゃなく警視庁も乗り出して来たんだ」

「違うよ。あの人は、もう本庁勤務じゃないから。まあ、事件そのものはいずれ警視庁も含めて広域捜査の対象になるだろうけどね」

 池谷は確信めいた口調で言った。

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