1970年の亡霊
 草間に率いられた五人の隊員は、いずれも精鋭中の精鋭であった。その動きに一つも無駄が無い。

 侵入地点へ到着すると、高さ二メートル程の塀に身体を寄せた。コンクリートの塀になっている部分は、正門から曲がり角の所までで、そこから体育館の裏側に沿って金網のフェンスが続いている。

 塀の陰から様子を窺った。

 草間は考えた。フェンス側からの侵入は至って簡単だ。金網をカッターで切断すればいい。だが、相手はこれまで訓練で想定して来たようなただの犯人とは違う。それに、金網側は体育館から丸見えだ。塀側は、丁度死角になる。

 細い私道の反対側では、古い民家の物陰から捜査員達と機動隊員が固唾を呑んで見守っていた。

 決断した。こっちだ。

 右手を部下達に見えるように掲げ、拳を握り、手振りで塀を乗り越えろと指示した。

 素早く隊員の一人が塀に中腰で凭れ掛かると、他の隊員が助走をつけてその隊員を足場にし、塀に飛び付いた。

 身体を反転させ、敷地内へ飛び降りる。五番目に草間が塀に飛び付き、足場になっていた部下を引き上げた。この間、一分と時間は掛かっていない。

「中に入りました。校舎との連絡通路までこのまま進みます」

 インカムで報告をし、草間は部下たちを匍匐前進させた。

 建物の壁伝いに、体育館の裏を進む。体育館の下窓は、全て内部から鉄板のようなもので塞がれていた。中の様子を窺う事は出来ないが、逆にこちらが気付かれる可能性も少ない。

 建物の半分、約二十メートルばかり進んだ地点で、草間が部下達に前進を止めるよう合図を送った。

 体育館の横扉だ。階段が三段。扉は鉄製のようだ。全体が錆びていて、もう何年も使われていない事を物語っていた。

 先を進んでいた部下を追い越し、草間はその扉へ身体を寄せた。


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