1970年の亡霊
 園田二尉が警察の強制捜査が入ったという報を聞いたのは、練馬の連隊本部から朝霞駐屯地へ向かって移動している最中の時であった。

 知らせによると、現在鹿島二佐とつるぎ会のメンバーを中心にしたかなりの人数が、交戦覚悟で篭城態勢に入ったという。

 兵員装甲車に同乗していた木ノ内三尉が、

「これは一体どういう事なのでしょうか!?連日治安出動を行い、国家の危機を護ろうとしている我々を官憲は犯罪者としているのはどういう理由なのでしょう。二尉、教えて下さい!」

 彼は一連の裏を知らない。防衛大学をこの春に出、任官したばかりの若者だ。

「詳しい情報が入って来なければ何とも言えない。一応、朝霞の様子を確認してみよう」

 園田に言われ、木ノ内三尉が朝霞駐屯地へ確認を取ったところ、そちらには強制捜査は来ていないが、ただ駐屯地内は混乱しつつあるとの事だった。

 市谷駐屯地に警察の強制捜査が行われた!

 第一報は瞬く間に全国の駐屯地へ飛んだが、その時点ではまだ各駐屯地とも然程の動揺は見られなかった。

 様相が変わったのは、強制捜査の容疑がクーデターを企図した国家反逆罪だと知らされてからだった。

 園田が朝霞駐屯地へ到着した頃は、東の空が紫色に染まり掛け、朝が近い事を知らせつつあった。

 朝霞駐屯地では、警察の強制捜査に憤りを爆発させた一団と、冷静に対処しなければならないとする一団に二分され、同士討ちしかねない程、険悪な状況になっていた。


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