1970年の亡霊
 翌日、加藤との待ち合わせ場所に向かった三山は、旧知の友に会える嬉しさで、日頃のくさくさした気持ちを忘れようとした。

 何だかデートにでも行くようで妙な感じ……

 本庁内では美人キャリアとして、周りからは高嶺の花と思われ、誰一人三山を気安くデートとかに誘う者はいない。

 尤も、三山自身にそういった事を受け付けないような壁がある。

 本人は意外とその事に気付かないものだ。

 隙が無さ過ぎる女に、男は寄り付かない。

 三山からすれば心外な話になる。彼女も女だ。心の中では、ちゃんと恋焦がれる女の一面があるのだ。

 夜の銀座を歩く人種も、ここ数年で随分と様変わりした。

 一番目に付くのは、中国人のツアー客達。ブランド品の紙袋を手にした一団の後ろから、一回り大きな身体が現れた。

 流れる汗をタオルハンカチで拭きながら近付いて来た加藤を見て、三山の顔は自分でも驚く程に華やいだ笑みを見せた。


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