天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
「…」

西館から出たジュリアは、真っ直ぐにある場所を目指して歩き出した。

「あ、あのお」

そんなジュリアに声をかけようと、慌てて校舎から出てきた姫百合を、後ろから肩を掴んで、九鬼が止めた。

「駄目よ。あの人には、時間がない」

九鬼は、ジュリアが歩いた後に残る微かな砂を見つめていた。

「…はい」

姫百合は、砂よりもジュリアの背中に漂う悲痛さを感じ取り、追うのをやめた。




「は、は、は」

激しく息をしながら、ジュリアが目指す場所は、一つ。

生前、行くことのできなかった場所…ダブルケイ。

内戦が続く祖国を訪れた…明日香達の音楽。

それが、生まれた場所。

あの時、聴いた音楽が…ジュリアの根になっていた。

(本当は…御姉様といきたかった)

町並みの遥か向こうに見える山。

その山の麓に、ダブルケイはある。

ジュリアはただ、真っ直ぐ…山を見つめながら、歩き続けた。




「じゃあね。バイバイ」

友達と手を振り別れた和恵は、自分の家であるダブルケイを目指し歩いていた。

結構、距離はあるけど、山へと向かう道は清々しく、ダイエットにもなると思っていたから、苦にはならなかった。

15分くらい歩くと、学園から姉妹校にあたる大鳳学園に着く。その前を真っ直ぐ、坂道を登ると、ダブルケイへ繋がる山道に出るが、あまり歩く人間はいない。

遠回りになるが、電車を乗り換え、地下鉄に乗る方が楽であり、夜になると安全だった。

しかし、慣れた道である。

和恵は、軽快に歩き出した。

「うん?」

山道が見える距離まで来た時、和恵はふと足を止め、足下を見た。

道の真ん中に、砂の塊が落ちていたからである。

土砂を運ぶトラックが、落としたのかもしれない。

それくらいの軽い気持ちで、和恵は砂を避けると、ダブルケイに向かって歩き出した。

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