天空のエトランゼ〜レクイエム編〜(前編)
赤星と呼ばれることにまだ慣れていない為に、一呼吸置くことができた。

「は、はい?」

少し驚いた振りも様になっていた。

「あっ!やっぱり、赤星さんだ」

向こうも不安だったのか…赤星の顔を見て、笑顔になった。

(そうだ!あたしは今…赤星麗菜なんだ)

少女の笑顔に、麗菜は改めて微笑んだ。

「こんなところで、何をしてるの?」

少女の質問に、麗菜は曖昧にこたえた。

「か、買い物に…」

「そうなんだ」

少女は、さらににこっと笑った。

「あ、あなたは…どうして、ここに?」

「あなたって、他人行儀じゃないの。同じクラスなんだから」

少女の不満げに、ちょっと膨れた顔に、戸惑う麗菜。

「ご、ごめんなさい」

「何してるの!和恵」

そんな2人に、少し離れた場所から声をかける女がいた。

サングラスをかけた細身の女。

「あっ!お姉ちゃん」

少女は慌てて、サングラスの女に手を振ると駆け出す前に、麗菜に言った。

「あたしの名前は、速水和恵。覚えておいてね」

「あっ!うん」

そうだったみたいに、わざとらしい態度をとって見せた麗菜に微笑みながら、和恵は走り出した。

その遠ざかっていく背中を見送りながら、麗菜は呟くように言った。

「クラスメイトか…」




「友達?」

そばまで来た和恵に、サングラスの女が訊いた。

「うん。同級生」

「そう」

会話は、それで終わった。

2人はしばらく、無言で町並みを歩いた。

ちらっと隣を歩く自分を見た和恵に、女は前を見つめながら口を開いた。

「今から、聴きに行くシンガーは…もしかしたら、時代を変えるかもしれない」

「え?」

「本物ならね」

女と和恵は、町外れにあるコンサートホールの前で立ち止まった。

そして、サングラスを外した女に気付き、コンサートホールに来ていたお客達がざわめき出した。

「天城志乃だ」

その声を無視して、志乃と和恵は会場内へ歩き出した。

「レダ」

志乃は、会場内に貼られたポスターを睨んだ。
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