君に幸せの唄を奏でよう。



やっぱ、歌はいいな…。 心が落ち着くし、楽しい。


『あいつは言ってたんだ。“歌が憎い”って』


憎い、か…。


「歌が憎いって、どんな気持ちなのかな…」


「はぁ?!」


何故か、音夜は驚いた顔をしていた。


……しまった!声に出しちゃった!


「誰かにそう言われたのか?」


音夜が、心配そうに聞いてきた。


もう、言っちゃったから隠せないわね…。


「言われてないけど、し、知り合いがね、歌が憎いって言ってたの。だから、どんな気持ちなのかな…って思って」


あたしは、話した。


「……俺は、そんな気持ちになった事ないから分からない」


「…そうね。分かんないわよね」


「でも、そいつ歌を“愛してた”んじゃないか」


「愛してた…?」


あたしは音夜の言葉を聞き、驚いた。


「だって、そいつは歌が憎いんだろ?嫌いだったら分かるけど、憎いって事は愛してたんだと思う。それに、昔からよく言うだろ。“愛しているからこそ、憎い”って。まぁ、これは俺の推測だけどな」


音夜は、そう言いアコギをまた弾き始めた。


「…音夜」


「なんだ?」


「…少し、1人になりたいんだけどいいかな?」


頭の中を整理したかった。


「…分かった。夕飯できたら呼ぶから」


音夜は、あたしに何も聞かず部屋を出て行ってくれた。


あたしは、アコギを弾きながら考えた。


確かに、“憎い”ってよっぽどなにかないとそんな感情には慣れない。


もし、橘 奏(あいつ)が歌を愛してたとして、何かの“キッカケ”で歌が憎くなった。


その“キッカケ”は何?その“キッカケ”のせいで、傷ついたの…?


今でも、苦しいの…?


時々、哀しそうな顔をしてたのも、それが原因だったの?


いろいろ考えても答え【真実】は、出てこない。


分からない…。


橘 奏の事が、分かんないよ…。



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