傷の行方
母親との関係も深くなり


母親にとって旅行は最高の


人生のご褒美だと喜んでいた



そして何より


めちゃくちゃな私の感情を


笑顔一色に変えてくれた彼に


母親は感謝していた


私は幸せだった


今までの苦痛の分だけ


幸せが降ってきたように感じた


生きていてよかったと思った瞬間も


何度かあった


彼は男としてもそして


ひとりの人間としても


やはり素晴らしい人だった


悲しいのは


彼とはまた住む世界が違うことだ


ファンとアーティストとの間には


見えない線がある


その見えない線を越えたら


大切なものを失ってしまうから


別々の世界だけれど


私にとって未知の世界だけれど


一緒に生きたいと心から思えた


その時には


もう憎しみなどすっかり消え去っていた


立ち上がる術を見つけた



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