闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 シャードはその金貨をしっかりと握り締めた。
 身体が軽くなった。
 自身の身を重くしていたのは他ならぬ自分自身だったのかもしれないと思い、シャードは苦笑した。
 衣服を新調し、髪を縛るための紐を買おう。武器は要らない。自身にはもう必要の無いものだ。代わりに小さな一粒石のピアスを買って耳に飾ろう。黒い石ではなく、何か別の色の石を。
 それがこの先、立てた誓いの礎(イシズエ)となるように。
 地上では満面の星空が広がっていることだろう。
 重みが取れた首を伸ばし、夜空を見上げながら歩こうとシャードは思った。



 「えー!? 盗まれたぁ!?」
 とある屋敷の一室で、エナは素っ頓狂な声をあげ、目の前の男に掴み掛かった。
 齧(カジ)りつかんばかりの勢いに、中年太りにビール腹の男はソファーからニセンチほど飛び上がった。
 「急に惜しくなって隠したんじゃないでしょーね!?」
 襟首を締め上げて詰め寄るエナに、トルーアでも両手の指に入る資産家の男は慌てて手を振った。
 「滅相もない!! あの高名な占い師からの紹介なのですから、そんな嘘はつきませんとも!!」
 可哀想にその声はこれでもかというほど上擦っていた。
 「占い師?」
 エナを中心に両側を固めた青年の内の一人、ゼルが身を乗り出した。
 それに答えるのはエナ。
 「そ。水の都、リファンタのね」
 「ああ、あのいけ好かない奴」
 何かを思い出したらしく相槌を打つジストをエナは、きっ、と睨みつけた。
 「ジェリーを悪く言うな。……ってゆかラフ虐めんな!」
 エナの視界に余り入らないジストの足――左足の膝をエナは踵で踏みつけた。
 その足の影ではエナがラフと呼んだ真っ白な毛並みの小さな生き物がジストの靴に対して思いっきり威嚇している。
 彼が突いたり蹴飛ばしたりを繰り返していたからだ。
 耳と尾の長い毛をふわふわと揺らすその生き物はエナの旅の相棒だ。
 「だってさぁ、まさかエナちゃんの相棒がこんなんだなんて」
 ジストはラフの首根っこを掴んで持ち上げた。
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