envyⅠ
 


メガネの人は楓さんというらしい。楓さんはちらっと私の方を見てからケチャップで汚れたゆいとくんの周りの席に目をやり、沈黙の後


「いや、ここでいい。」
と、軽く拒否し蕎麦を席に置いて食べはじめた。


オムライスは?と思っているとゆいとくんが、楓さんは洋食をあまり食べないんですよ、と教えてくれた。

ゆいとくんと一緒に食べるのは楽しかった。

嘘みたいだった。今さっき、私の世界が反転したのに。確かに、反転したのに。こうやって笑えてる今が。


さっきはパニックになったけど、急過ぎて深いところで実感が湧いてないからとか。あまりにもゆいとくんが、友好的で可愛い過ぎるからか。さっき想像したものより、遥かに今が平凡だからか。

思い当たるのはいくつかあるけど、はっきりどれっていうのはわからなかった。
全部のような気もするし、全然違うような気もする。


いきなり連れてこられて怖いですよね?ってゆいとくんは私を心配してくれた。大丈夫だよって言ったらそうですかってちょっと安心したみたいな顔をされた。

おなかも満たされた私はまた白い部屋に戻った。
深く今日のことを考えたくて、部屋に置かれてるベッドに身を沈める。

鈍い思考回路の中で、最後に出た言葉は明日からどうしよう、だった。

そんなこと考えたって、私が答えを見つけれるわけないのに。どうしようって、どうしようもないのに、って。馬鹿だなぁってゆっくり息を吐いて眠りにおちた。


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