桜ノ籠 -サクラノカゴ-
春ノ第一章

明けない夜の桜


 ひらり、ひら、舞い散る、桜。


 静かに、静かに降る、花片。


私は、ただ眺めていた。
蒼空と桜の匂いの中、何の想いも感情も無く、ただー



「ただいま」


「青磁(せいじ)?なに、帰って来たの?連絡ぐらいしなさいよ。今夜あんたの分の夕飯無いわよ」

「茜姉(あかねえ)…久々に帰って来た弟にその言い方はひどい…」


「何言ってんの、彼女にフラれて人恋しい時しか帰ってこない、薄情者が」

「ぐッ…、28でまだ実家にいる姉に言われたくないな」


「私は好きでいるのよ。
フラれて暇な時だけ帰って来るあんたとは違うの。
そういえば、あんた…春に帰って来る事が多いわね。
ウチの庭の桜が咲く頃は特に。
ーーああ、てことは、春によくフラれると、そう云う事か」


「もういい、俺部屋いくから」

「あんたの部屋、物置になってるわよ」

「……」






< 1 / 467 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop