桜ノ籠 -サクラノカゴ-
「青磁先生が車運転するの知りませんでした」

「ん、そうだった?」

青磁先生は、前を向いたまま不思議そうな顔をした。

「あぁ…そういえば、学校の通勤はバスだし、実家には地下鉄で行ったんだっけ」

思い出したように口にすると、青磁先生の表情が少し変わった。


「そうか…春以来、月に何度か車で出掛けるくらいだったな」

そう言葉にする青磁先生は、
寂しそうな
複雑そうな

横顔だった。



月に、何度か?

車でどこへ?


そう聞きたかったけど、なんだか聞きづらくて、自分の手元から視線が移せない。

膝上にのせていた藍色のマフラーと、
小さな黒いショルダーバックを見つめ、

頭の中は言葉に出せない同じ疑問ばかりが、グルグル廻る。


何か、
何か話さないと、と思ったけど、


何も浮かばない。。。






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