雨音色

「君は、ただ親に勧められて私と結婚しただけだろう?


・・・私が好きで結婚した訳ではない。


それなのに、どうしてここまで私に尽くしてくれるのか、不思議に思ったんだよ」


彼女は大きな瞳を2,3度ぱちぱちと瞬きさせた後、


ふ、と噴き出した。


「・・・何が可笑しい?」


少し不機嫌そうに、彼が尋ねた。


「申し訳ありません」


彼女はあわててそう言うも、尚も可笑しいのか、


ふふふ、と笑ってから、彼の問いに答えた。


「貴方様も、そうでございましょう?」


彼は黙ったまま、ただ1回だけ、頷いただけだった。


「確かに、私たちは愛し合って結婚した訳ではございませんでした。


それは覚悟の上でしたし、皆がそうなのですから、そのことについて、


あまり不満はございません。


・・・でも、私は、結婚してから、ずっと貴方様と一緒に過ごしてきて、


貴方様の優しさや、懐の大きさを見てきました」


彼女は年甲斐もなく、耳まで真っ赤にしながら、


恥ずかしそうに俯いて、突然小声で呟くように、その先を続けた。











「・・・そうですね、恐らく、私は、今、貴方様に恋をしていると思います・・・」









彼は、自分の耳を疑った。


< 115 / 183 >

この作品をシェア

pagetop