雨音色

「タマ・・・」


かすれた声で、彼女が小さく、うわ言の様に呟く。


タマは、ゆっくりとベッドに近づき、


横たわる彼女の隣に、かしずいた。


「・・・奥様」


その声に、彼女がタマの方に顔を向ける。


その顔色に、彼女の背中が瞬時に冷たくなった。


―――信じられないくらいに、白い。


一気に、医師の言葉が、現実味を帯びてくる。


思わず、彼女の手を握る。


―――冷たい。


人の手を触っているとは、思えないほどに。


「奥様・・・なんて、・・・呼ばないで・・・」


弱々しくほほ笑むその姿が、胸を締め付ける。


「ごめん・・・なさい・・・」


知らぬ間に、彼女の瞳から涙が零れおちた。


胸に迫るのは、あの日からの後悔。


「私が・・・あの時、止めていれば、・・・っ!?」


一度涙が落ちると、次も、その次も、涙が零れおちてくる。


必死に止めようと我慢しても、涙は自然と落ちてくる。


「・・・どうして?」


ぎゅ、と冷たい手で、握り返される。


信じられないくらいに、強い力で。


「私は、・・・感謝してる。・・・貴女が、傍に居てくれて」


「私なんてっ・・・!?」


まるで子供のように、タマは泣きじゃくっていた。


それをあやすかのように、彼女は握りあう手を、左右にゆっくりと揺らす。


「・・・最高の幸せ、・・・貴女が傍に居てくれたから、手に入れることが出来たの。


・・・ありがとう」


静かな部屋には、タマの泣き声だけが響いていた。





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