雨音色
「いいか、無礼のないようにな」


「はぁ・・・」


ぼりぼり、と乾いた音がした。


「そういう風に相手の前で頭を掻いたりするな。背筋を伸ばして。ほら、眼鏡もこれに代えなさい。それでは汚すぎる」


隣に座る牧から、新しい眼鏡が手渡された。


「先生、見合いって言っても・・・」


藤木の言葉を遮るように、牧が捲し立てる。


「とにかく、きちんとしなさい。分かったかね」


「・・・はぁ・・・」


「壮介君、いつもより素敵に見えるから、頑張ってね」


そう言ったのは、助手席に座る牧の妻である晃子であった。


子供のいない二人は、藤木を実の息子のように可愛がってくれていた。


今日は藤木の見合いということもあり、二人揃って出向いてくれたのだった。


「・・・はぁい」


唯一憂鬱な顔をした藤木は、窓の外を見た。


以前いつ来たのかすら思い出せないくらい、久々の銀座は、多くの人で賑わっている。


「・・・はぁ」


大きなため息が、彼の口から零れ落ちた。
< 15 / 183 >

この作品をシェア

pagetop