雨音色
「愛しています。心から、愛しています。
だから、もう2度と、もう・・・」
涙が、止まらなかった。
何度も、諦めようとした。
何度も、忘れようとした。
そのたびに、彼女の姿を夢の中で追いかけ、抱きしめるのに、
彼女は、腕の中から、まるで影のようにすり抜けていき、
その度に感じる儚さが生み出す切なさで、身が引き裂かれそうになった。
目が覚めるたび、たかが恋愛感情で、そう自分に言い聞かせた。
それでも、・・・駄目だった。
どうしても、諦められなかった。
「・・・愛しています。僕と一緒に、幸せになってください」
彼女の小さな愛らしい耳に、彼がそっと囁いた。
甘い溜息が、彼女の口から零れる。
彼の背中にまわされた腕に、力が込められた。
「貴方以外の人と一緒になる未来なんて、・・・私には想像できませんから」
彼女が、胸に埋めていた顔を上げ、彼の顔を見上げる。
その瞳に映る自身の顔は、涙と笑顔でぐしゃぐしゃになっていた。
「もう、・・・殿方がそんな風に泣くなんて・・・」
くす、と彼女が笑う。
そして、ヒールを履いた足で、つま先立ちをし、彼女が彼の耳にささやいた。
「愛しています。・・・貴方だけです、私を幸せにできるのは」
静かな海に、空から雨が降っていた。
それは温かく、優しい雨だった。
微かに聞こえてくる雨の音色が、静かなバンケットホールに響く。
真中で、固く抱き合う2人が、もう2度と離れないように、
そんな祈りを込めた歌を、歌うかのように。