雨音色

「愛しています。心から、愛しています。


だから、もう2度と、もう・・・」


涙が、止まらなかった。


何度も、諦めようとした。


何度も、忘れようとした。


そのたびに、彼女の姿を夢の中で追いかけ、抱きしめるのに、


彼女は、腕の中から、まるで影のようにすり抜けていき、


その度に感じる儚さが生み出す切なさで、身が引き裂かれそうになった。


目が覚めるたび、たかが恋愛感情で、そう自分に言い聞かせた。


それでも、・・・駄目だった。


どうしても、諦められなかった。


「・・・愛しています。僕と一緒に、幸せになってください」


彼女の小さな愛らしい耳に、彼がそっと囁いた。


甘い溜息が、彼女の口から零れる。


彼の背中にまわされた腕に、力が込められた。


「貴方以外の人と一緒になる未来なんて、・・・私には想像できませんから」


彼女が、胸に埋めていた顔を上げ、彼の顔を見上げる。


その瞳に映る自身の顔は、涙と笑顔でぐしゃぐしゃになっていた。


「もう、・・・殿方がそんな風に泣くなんて・・・」


くす、と彼女が笑う。


そして、ヒールを履いた足で、つま先立ちをし、彼女が彼の耳にささやいた。


「愛しています。・・・貴方だけです、私を幸せにできるのは」








静かな海に、空から雨が降っていた。


それは温かく、優しい雨だった。


微かに聞こえてくる雨の音色が、静かなバンケットホールに響く。


真中で、固く抱き合う2人が、もう2度と離れないように、


そんな祈りを込めた歌を、歌うかのように。



< 171 / 183 >

この作品をシェア

pagetop